02_ボディメイク0203_生化学・生理学

若返り研究最先端!その① 「老化の唯一の原因」(要約)

生命の誕生

 約40億年前の地球で生命は泡から生まれた。隕石や彗星に付着して落ちてきた有機分子が水たまりで濡れたり乾いたりするうちに、特殊な化学反応が起き、のちに「DNA(遺伝子)」へとつながる「RNA(リボ核酸)」分子が生じた(見た目は泡)。そして、RNA自らの複製を作り始めた。生命が誕生した瞬間である。

 RNAは地球の過酷な環境に耐えながら必死に進化を続け、遺伝子メカニズムを手に入れ「DNA」を保有した。これらの遺伝情報ができることは、たった2つ。細胞を増殖することと、その増殖を止めることであった。そしてさらに進化を遂げ、もう1つの役割を獲得した。その役割とは「DNAの修復」である。これはとても画期的なことで、もしこの修復機能がなければ、過酷な環境で損傷した細胞をそのまま複製してしまうことになり、細胞は死滅するか増殖して腫瘍になってしまう。生き残るためにうってつけての仕組みを獲得したのである。この遺伝子メカニズムを「サバイバル回路」という。

 DNA細胞が増殖を繰り返し進化を遂げ、新たな世代を次々に生み出していった。この生物こそが、私たちのアダムとイブである。私たち人類やすべての生物が今在るのは、この原初のサバイバル回路を生み出した奇跡のおかげで、生命を何十億年も存続させたからである。

老化の原因に注目すべき理由

 老化に唯一の原因があると聞くと、相当に面食らうことも無理もない。そもそも年をとる理由など普通は考えない。老化に伴う病気を専門とする老年医であっても、なぜ老化するのかという点に悩むことは少ない。同じように、1960年代のガンとの闘いとは症状との闘いだった。なぜガンが発生するかを語ることのできる理論がなかったため、医師はガンの腫瘍を取り除くことだけに専念していた。だが、1970年代に入ってガン遺伝子が発見され、研究者や製薬会社はガンの根本を絶つ薬の開発に集中するようになった。この数十年で飛躍的にガン治療が前進し、大勢の命を救っている。

 ガンと同じように我々はすでに老化がどのようなもので、どんな影響を及ぼすか十分な理解がある。しかも、老化をどうのようにすれば食い止められるのかについても、研究者のあいだで意見の一致を見つつある。この様子でいくと老化を治療できる日はもう目の前まで来ているということだ。

老化の唯一の原因は存在しないという見解

 老化研究を牽引する主要な科学者たちが1つの新しいモデルに注目し始めた。大勢の聡明な研究者があれだけ頑張っても老化のたった1つの原因を突き止められなかったのは、もともとそんなものが存在しないからだ、というものである。老化も、老化に伴う病気も老化の典型的特徴が組み合わさった結果であるという。その典型的特徴とは下記の9点。

  • DNAの損傷によってゲノムが不安定になる
  • 染色体の末端を保護するテロメアが短くなる
  • 遺伝子スイッチをオンオフを調整するエピゲノムが変化する
  • タンパク質の恒常性機能が失われる
  • 代謝の変化によって、栄養状態の感知メカニズムがうまく調整できなくなる
  • ミトコンドリアの機能が衰える
  • ゾンビのような老化細胞が蓄積して健康な細胞に炎症を起こす
  • 幹細胞が使い尽くされる
  • 細胞間情報伝達が異常をきたして炎症性分子が作られる

 これらすべてに対処できれば、平均寿命を大幅に延ばせるだろう。ただ、最大寿命を延ばすという点では不十分の可能性がある。そもそもこれらの典型的特徴がなぜ現れるのかが説明できていない。これの答えが存在すると私(シンクレア教授)は信じている。典型的特徴の上流に老化の原因があるはず。しかも、唯一の原因が。

シンクレア教授の考える老化の唯一の原因

 老化とは情報の喪失に他ならない。生体内には2種類の情報があり、DNAとエピゲノムである。

 DNAは生物の設計図であり、デジタル動作で保存やコピーを確実に行うことができる。4万年前のネアンデルタール人の死骸からDNAが抽出できるほど、保存性が高い。

 一方、エピゲノムは、そのDNAがコピーされる際にどのような種類の細胞になれば良いのかDNAの一部の遺伝子スイッチをON、OFFで調整する。体内のすべての細胞に対して、脳細胞や肝細胞など何百種類もの異なる役割に変化させ調整しているのがエピゲノムである。ただ、エピゲノムはアナログ情報であるため時間とともに劣化し、昔の古いVHSテープをダビングすると劣化してしまうように、エピゲノムもコピーする際に情報が失われることがある。DNAが損傷を受けた場合、「サーチュイン」という酵素がそれを修復するのだが、その間、エピゲノムは正常な働きができなくなり、コピーに失敗する。

 まとめると、若さ→DNAの損傷→サーチュインがDNAの回復に集中→エピゲノムの混乱→細胞分裂失敗→細胞の老化→病気→死。

 この1つのプロセスが老化の唯一の原因とシンクレア教授は考える。逆を言えば、このエピゲノムさえ修復することができれば、若返りも実現可能なのである。

長寿遺伝子が老化を治す鍵

 ヒトの遺伝子は、現在二十数個が見つかっている。その1つの「サーチュイン」遺伝子は、サーチュイン酵素を作り、エピゲノムの制御やDNAの修復など細胞を制御する最上流に位置して、老化において極めて重要な役割を担っている。サーチュインは、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という分子を用いて働いていることがわかった。加齢とともにNADが失われ、そのせいでサーチュインの働きが衰えることが、老齢に特有の病気を発症する大きな理由の1つと考えられる。

 サーチュインが活性化することで、DNAの修復が進み、記憶力が向上し、運動持久力が高まり、何を食べても太りにくくなるということがマウスの実験でわかった。これは「ネイチャー」、「セル」、「サイエンス」といった一流科学誌に掲載された研究結果である。

 サーチュイン遺伝子は、原初のサバイバル回路が進化し数十億年にわたって途切れることなく繁栄を続けきた末裔であり、老化の仕組みを解明する鍵となっている。

 サーチュイン以外で研究も非常に進んでいる遺伝子群が下記の2組である。どちらについても、より長く健康に生きるために人の手で調節することが可能だと実証されている。

  • mTOR(エムトア)・・・利用可能なアミノ酸の量を感知し、それに応じてどれくらのタンパク質を合成すべきかを決めている。一方、このmTORの働きが抑制されていると、オートファジーが発生する。細胞分裂を止め、細胞内にある古いタンパク質を分解して再利用する。車が壊れたとき新車を買うのでなく、廃品置き場で部品を調達して修理するようなもの。わずかなタンパク質で命をつなぐ必要があった場合に生き延びられたのは、このmTORを抑制する働きがあるからだ。
  • AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)・・・酵素を作る遺伝子で、代謝をコントロールする機能を持つ。

 これら遺伝子に共通するのは、生体にストレスがかかると始動を始めるということだ。だが、大きすぎるストレスは逆効果になる。カタツムリがどんなに頑張っても踏まれたら万事休すだ。細胞を損傷させることなく、適度なストレスをかけることがポイントになる。例えば、適度な運動、たまに絶食、低タンパク質の食事、高温や低温に身体をさらすなどだ。身体に少しの負荷をかけることが、生物にプラスの作用を及ぼし、これが長寿への第一歩になる。


トレーナーKanameの筋肉翻訳

Kaname
Kaname

要約なげーよッと思われた方、すみませんした!できる限り分かりやすく解釈したつもりが、なかなか長くなってしまいました。生命の仕組みほど面白く興味を感じるものは他に類を見ないです。もうずっと勉強していたい!(反省ゼロ)

Kaname
Kaname

 生命誕生にはいくつかの説があるけど、その1つが有機分子が地球外から降ってきたという説。となると私たち生命の起源は地球外にあったとも言えて、すごいロマンを感じるのは自分だけでしょうか。

ガチャ丸<br>こぶん
ガチャ丸
こぶん

ボクも感じるです!

 それはさておき、3つの遺伝子(サーチュイン、mTOR、AMPK)が長寿へと至る主要な経路というのはとっても興味深いものですね!

 要約を読んで頂いて、筋トレにハマっている読者は、「mTOR」という用語にピンと来たのではないでしょうか?そう、筋肥大において注目度の高い物質「mTOR(エムトア)」です。(mTORについて別記事でも解説)簡単にいうとタンパク質の合成を促すスイッチです。スイッチをONにするためには、豊富なアミノ酸があることやインスリンの分泌などが挙げられます。特にアミノ酸の中でもBCAAが他のアミノ酸と比べ活性が増すというエビデンスもあり、トレーニング中だけはBCAAを摂るなんて人もいますね。

 逆にOFFになるのは、エネルギーの枯渇や精神的なストレス(コルチゾール分泌)などが原因です。要約の通り、これをOFFにして、生命は過酷な環境に耐え抜いてきました。

 あと、AMPKは脂肪の燃焼を高めることができる物質です。運動をすることでAMPKが活性化され、脂肪を分解する酵素が促進します。AMPKはアディポネクチンの摂取でも活性することができます。(アディポネクチンについて別記事で解説)

 そして、サーチュインです!老化の唯一の原因のエピゲノムをこのサーチュインが統括しています。DNAが損傷するとこのサーチュインさんがこの修復に全力投球し、エピゲノム君が放置され、頭がおかしくなるのです。では、DNAの損傷とは何か。一言でいえば「生きていること」です。生きていれば、いつの間にかDNAが壊れます。有害なガスや放射線などの影響ももちろんありますが、普通に生きているだけでも損傷の原因になります。これは防ぎようがありません。問題は、DNAの損傷ではなく、サーチュインさんがエピゲノム君のお世話してあげられないことです。それを解決する方法はとてもシンプル。サーチュインさんを増やせばDNAの修復とエピゲノム君の面倒を両立できるのです。

 現代科学でそれが実現可能になってきたということを皆さんに知って欲しいです。シンクレア教授らは仮説を実証するため数えきれない実験に成功し、一流科学誌に幾度となく掲載(研究者にとって一度でも掲載されること自体が夢のレベル)され、とんでもない量のエビデンスが高い信憑性を物語っています。シンクレア教授の実績により「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれています。あとは、信じるかどうかあなた次第!

ガチャ丸<br>こぶん
ガチャ丸
こぶん

信じます!

Kaname
Kaname

俺も~!

そこの筋トレしてる人~、もう若いままずっと筋トレできますよー。

次回は、「今すぐできる老化を治す方法!」お楽しみに~。

参考文献:LIFE SPAN 老いなき世界

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