国から発表されている資料などを基に脂肪酸の種類と摂取目安などを表にしてみました。これらの情報からダイエット食をどのように進めるべきか考察しました。
脂質は我々にとって必要不可欠な栄養素です。低糖質ダイエット(ケトジェニックダイエット)をしている方だけでなく低脂質ダイエットしている方にとっても制限された脂質摂取量の中でどの脂肪を選択するかは重要です。脂質は、その種類によって摂るべきものと、逆に動脈硬化などのリスク要因になるものが存在するので、これらを理解して、さらに健康的で効果的なダイエットを進めていきましょう。
◇脂肪酸の種類と特徴
脂肪酸の種類 | 主な脂肪酸 | 代表的な食品 | 特徴 |
目安量 |
必要性・危険性 |
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飽和脂肪酸 | 短鎖 | 酪酸 | バター | 腸内環境を改善する | 総エネルギーの7%が上限設定されている | 体内で合成可能であり必須栄養素ではない。長鎖脂肪酸は、高LDLコレステロール血症の主なリスク要因であり、心筋梗塞を始めとする循環器疾患の危険因子でもある。 | |
中鎖 | ラウリン酸 | ココナッツ油・MCTオイル | 消化・吸収が早くエネルギーになりやすい、脂肪がつきにくい。 | ||||
長鎖 | ミリスチン酸 | ヤシ油・パーム油 | LDLコレステロール濃度を向上させる、中性脂肪を増やす。 |
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パルミチン酸 | バター・ラード・牛脂 | ||||||
ステアリン酸 | ラード・牛脂 | ||||||
不飽和 脂肪酸 |
一価不飽和脂肪酸 (n-9系) |
オレイン酸 | オリーブ油・菜種油・キャノーラ油・ナッツ類、ラード・牛脂 | 血中LDLコレステロールを減少させると考えられていたが、現在ではLDLを増やさない穏やかな脂肪酸との認知にかわりつつある。酸化されにくい。 | 目安量の設定なし | 飽和脂肪酸よりも相対的に循環器疾患の予防に寄与する可能性はあるものの、明らかでないことも多く、肥満予防の観点からは過剰摂取に注意するべき。 | |
多価不飽和脂肪酸 |
n-6系 |
リノール酸 | 紅花油(サフラワー油)・ひまわり油・大豆油・コーン油・くるみ |
必須脂肪酸。 血中LDLコレステロールや血圧を下げる。γ-リノレン酸、アラキドン酸に代謝される。 |
8~10g程度 |
体内で合成できない脂肪酸であるため摂取は必須。冠動脈疾患を予防する可能性が示唆されている。飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(n-6系が大部分を占める)に置き換えたメタ分析では、心筋梗塞発症率が有意に減少した。 |
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γ-リノレン酸 | 母乳、月見草油 | 血糖値、血中LDLコレステロール、血圧を下げる。様々な生体機能の調整。 | |||||
アラキドン酸 | レバー・卵白・サザエ | 必須脂肪酸。胎児、乳児の正常な発育に必須。 | |||||
n-3系 | α-リノレン酸 | シソ油・エゴマ油・アマニ油 | 必須脂肪酸。皮膚炎を防ぐ。体内でエネルギーになりやすく、必要に応じEPA、DHAに作り変えられる。 | 1.5~2g程度 |
体内で合成できない脂肪酸であるため摂取は必須。皮膚炎や成長障害を予防する。特にEPA・DHAは循環器疾患の予防に有効である。また、認知機能低下や認知症の要望にも効果が期待されている。コホート研究によりLDLコレステロールの低下作用はないが、HDLコレステロールの微増、中性脂肪を下げる効果が認められている。 |
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EPA | 青魚・魚油 | 抗血栓作用。血中の中性脂肪を減少させる。酸化されやすい。 | |||||
DHA | 青魚・魚油 | 抗血栓作用。脳のリン脂質の構成成分。酸化されやすい。脳の機能を高める。 |
※目安量について厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に基づく。ただしこの数値が健康に望ましいという化学的根拠があるわけではなく、健康な日本人の摂取量の調査でその中央値を出していることが多い。飽和脂肪酸のみ上限が設定されており、その他の脂肪酸については上限が設定されていない。コレステロールの上限が200mg/日と新たに設定されたが、これは脂質異常症の重症化予防を目的としているため万人に該当するものではない。
注意すべきトランス脂肪酸
トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸であり、工業的(人工的)に水素添加を行い、不飽和脂肪酸(液状油)を飽和脂肪酸(固形油)に変えるときに副産物として生じます。トランス脂肪酸は飽和脂肪酸よりも血中コレステロールを増加させます。自然の動物の体内にもトランス脂肪酸は存在するが、悪影響があるのは前者の工業由来のものだけで、摂らないにこしたことはありません。海外では使用禁止にしている国もあります。
トランス脂肪酸が含まれる代表的な食品はマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングです。そして、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などとなります。気づかないうちに摂取している事も多いので、加工食品にも注意を向ける必要があります。
脂肪酸からダイエット食を見直す
現代人にとって、最も重要な脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸です。体内で合成できない脂肪酸であるため、目安量をもとに摂る必要があります。n-6系脂肪酸は、血中LDLコレステロールを下げますし、n-3系脂肪酸は、中性脂肪を下げてくれます。(ただし、どの脂肪酸にしても過剰に摂取することは肥満につながります)
そして、最も注意すべき脂肪酸は、飽和脂肪酸(長鎖脂肪酸)です。血中LDLコレステロールを上げ、様々な疾患のリスクがあります。体内で合成することができるため、飽和脂肪酸を積極的に摂る必要はありません。
上記のことから、各ダイエット食(低脂肪食、低糖質食)において下記のように考えます。
低脂肪食
低脂質食では総摂取カロリーの10%程度まで脂質摂取量を制限するため、このダイエット食を採用する場合は特に摂取する脂肪酸の種類まで注意を向ける必要があります。優先して摂取すべき脂肪酸は多価不飽和脂肪酸であり、厚生労働省の推奨する10g程度(n-6系:n-3系=4:1の割り合いが望ましいとされる)を摂取することが考えた場合、多価不飽和脂肪酸が豊富でかつバランスの摂れた食品を積極的に食事に取り入れていきましょう。
筆者が調べた中でオススメする食品は、飽和脂肪酸よりも3倍以上の比率で多価不飽和脂肪酸が多く、かつn-6系:n-3系が6:1程度とバランス良く含まれる食品は、「納豆」や「豆腐」などの大豆系食品です。タンパク質も多く含まれているので、低脂肪食で脂質を適切に管理するのに優秀な食品といえます。他に、オイル系ではアマニ油やえごま油が多価不飽和脂肪酸が非常に多く含まれています。ただ酸化しやすいので、加熱しないようにしましょう。(加熱したい場合は酸化に強いオリーブオイルを使用しましょう)
青魚のサバは、n-3系も豊富ですが、それ以上に飽和脂肪酸の量も多く含まれています(多価不飽和脂肪酸の約2倍の比率)。魚を摂ることは良いことなのですが、なるべく低脂肪の魚(タラやティラピアなど)を選び、フィッシュオイルなどのサプリメントやアマニ油などで補助できるとさらに低脂質食を上手く管理できるでしょう。
実践方法はこちらを参照してください。
低糖質食(ケトジェニック)
ケトジェニックでは、総摂取カロリーの60%程度を脂質から摂取します。健康的なケトジェニックを進めるためにも良質な油を選びましょう。代表的なものでは、MCTオイル、オリーブオイル、亜麻仁オイル、魚油、ナッツ類を中心に摂ると良いでしょう。(良質なオイルについてこちらで解説)
飽和脂肪酸の中でもMCTのような中鎖脂肪酸は、小腸から吸収して全身をめぐるわけではなく直接肝臓で代謝されるため中性脂肪になりにくく、エネルギーになりやすいです。(脂肪貯蔵メカニズムはこちらで解説)速やかにケトーシス状態に切り替えるため、100%中鎖脂肪酸のMCTはケトジェニックに欠かせない重要なオイルです。トレーニングのパフォーマンス発揮にも役立ちます。
ナッツ類も良質な油がバランス良く含まれています。特にクルミは多価不飽和脂肪酸の配分バランスが非常に良いです。また、アーモンドはビタミンEが豊富に含まれているので酸化防止にもなります。
ケトジェニックは、十分な脂質を摂取する必要がありますが、焼き肉やステーキばかりに偏ると最も摂ることを控えなければならない長鎖脂肪酸の摂取量が増え、健康へのリスクが高まります。肉に偏らず魚介類や大豆食品も積極的に取り入れましょう。
実践方法はこちらを参照してください。