「脂肪」はいつも悪者にされることが多いけど、生理学的には、細胞を形づくったり様々なホルモンの材料になる等、体には欠かせない栄養素なんだ。
そうでござったか!
店主!麺マシの背脂マシマシで!
(無視)。
飽食の時代に入り、現代人の糖質・脂質の過剰摂取が問題になっています。脂肪蓄積のメカニズムを理解して、食生活を見直しましょう!
糖質や脂質を含む食品を口に入れてから脂肪に変わるまでの経路(消化→吸収→代謝)をそれぞれ解説していきます。おまけで、コレステロールについても解説しています。
<食べ物の消化・吸収>
ラーメンやピザなどを食べ、口や胃、十二指腸、小腸などで段階的に消化されていきます。唾液に含まれるアミラーゼ、胆汁や膵臓から分泌されるリパーゼなどの消化酵素が糖分と脂肪分を細かく分解していきます。最終的に小腸の細胞から吸収される段階になると、糖分はマルトース、脂肪分(中性脂肪など)は脂肪酸などの小さな分子となっています。ただし、脂肪の1つであるコレステロールは分解できないため、そのまま小腸から吸収されます。
<糖分の代謝>
小腸から吸収された糖分のマルトースは、肝臓ですべて「グルコース」という糖分の最小単位に変換されます。それから肝臓を起点に血流に乗り全身をめぐります。よく食後に血糖値が上がると言いますが、それはグルコースが血管に入り(血糖)、全身にまわっていることを意味しています。
グルコースはインスリンなどの作用により各細胞内のミトコンドリアに入ります。通常はここでエネルギーに変わり燃焼されるのですが、過剰な糖分を摂取した場合は、エネルギーに変換されず、脂肪酸に変換されます。あとの工程は、後述する脂肪分の代謝と同じです。
<脂肪分の代謝>
小腸から吸収された脂肪分の脂肪酸などは中性脂肪に再合成されコレステロールとともに、タンパク質で覆われ球状の物質になります。これをキロミクロン(カイロミクロン)と呼びます。この変化は水(血液)に油は溶けないため、血管内を動きやすいように水になじむ特殊な構造になる必要があるからです。
キロミクロンはリンパ管を通り鎖骨付近から血流に乗り、いざ新世界へ出航です!ここから、4段階の脂肪運搬が行われますので、それぞれ説明します。
①キロミクロン
キロミクロンは、全身をめぐり各脂肪細胞に中性脂肪をお届けします。脂肪組織にいる酵素(リポタンパク質リパーゼ)が中性脂肪を脂肪酸などに分解して細胞に取り込み、また中性脂肪として再合成し貯蔵します。また、筋肉の細胞に行き、中性脂肪がβ酸化されてエネルギーになり燃焼することもあります。このようにキロミクロンは、各細胞をめぐり中性脂肪の積み荷が軽くなってくると肝臓に戻り、その役目を終えます。
※ただし、MCTオイルのような中鎖脂肪酸は、リンパ管を通らず小腸で吸収されると門脈を通り直接肝臓へたどり着くため、中性脂肪になりにくく、エネルギーへの代謝が早い。
②VLDL
その次に、肝臓でキロミクロンが残していった積み荷をかき集め、新たにVLDL(超低密度リポタンパク質)という中性脂肪とコレステロールを積んだ船が出航します。キロミクロンの役割と同じように、各脂肪細胞に中性脂肪をお届けします。そして、中性脂肪の積み荷が完全になくなるまで仕事をします。そうすると、積み荷はコレステロールだけとなり、船の名前もVLDLから「LDL」に変わります。皆さんが良くご存じのLDL(悪玉)コレステロールのことです。
③LDL
LDLは全身をめぐり、抹消組織にまでコレステロールを届けに回ります。運搬するコレステロール量が多すぎると動脈硬化などの原因になります(現代人は、このLDLの濃度を一定の基準値以下に減少させることが推奨されています)。LDLは役目を終えると次は肝臓で新しくHDLの船が作られます。HDL(善玉)コレステロールです。
④HDL
HDLは抹消組織の余分なコレステロールを回収しに全身をまわります(現代人は、このHDLの濃度を一定の基準値以上に増加させることが推奨されています)。そして、肝臓に戻り、積み荷をおろし、余分なコレステロールは体外へ排出されます。
まとめるとキロミクロンとVLDLが、俗にいう脂肪を溜め込みます。摂取した脂肪分が多いほど脂肪が増えるということになります。(じゃぁケトジェニックってどういう仕組み?と賢い読者はすぐ考えると思います。別記事で詳しく説明します)
それに対して、LDLとHDLはコレステロールの運搬と回収を行いますが、摂取したコレステロールが多いほど、血中のコレステロールが多くなるとは限りません。そもそも、コレステロールとは何なのか?後述します。
コレステロールについて
コレステロールというのは男性ホルモン(テストステロンなど)や女性ホルモン(エストロゲンなど)などのステロイドホルモンや細胞膜や胆汁酸の材料になるので体には欠かせない重要な栄養素です。コレステロールが欠乏すると、細胞膜や血管が弱くなったり、免疫力が低下したり、脳出血などを起こしやすくなったりしますが、体内でも合成することができますし、現代の食生活ではあまり不足することはありません。それよりも過剰に増えることのほうが問題となることが多いです。
LDLがすべての抹消組織にコレステロールを届け積み荷がそれでも残っていると、LDLは血中を漂い、活性酸素に攻撃され酸化し、血管に付着します。これが積み重なると血管がつまり動脈硬化や脂質異常症などの原因になることがあります。防止策としてビタミンE、Cの摂取による活性酸素の除去は一定の効果が認められています(活性酸素についてこちらで解説)
また、卵などコレステロールが多く含まれる食品の過剰摂取は危険だと思われるかもしれませんが、一概にそうとも言いきれません。2015年に厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準」ではコレステロールの摂取上限がなくなりました。これは、摂取したコレステロールが必ずしも血中のコレステロールを増やすという相関関係が認められないからです。
血中のコレステロール量は肝臓の機能により制御されています。摂取するコレステロール量が多くなると、肝臓で合成するコレステロール量が少なくなり、摂取するコレステロール量が少なくなると、肝臓で合成するコレステロール量が多くなります。このコレステロール合成のフィートバック機構により量のバランスが保たれています。
実は、摂取するコレステロール量よりも摂取する脂肪酸の種類と量によって血中コレステロールが増減します。つまり、卵のコレステロール含有量よりも卵の脂肪酸の種類に注目し、判断する必要があるのです。(脂肪酸の種類についてこちらで解説)そのため、コレステロール上限が撤廃されたのだから、卵をいくつ摂っても良いという人がいますが、それはあまりにも早計です。脂肪酸の1つである飽和脂肪酸を過剰に摂取するとLDLが増え、様々なリスクの原因になります。
よって、食事による脂質摂取においては、コレステロールの量という観点ではなく、脂肪酸の種類と量をバランスよく摂ることに主眼を置くことが大切です。