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女性ホルモンの働きと心と体のケアⅡ(妊娠)

女性ホルモンの働きと心と体のケアⅠ(月経)

 前章で紹介したエストロゲンとプロゲステロンは他のホルモンと相互作用しながら、生涯を通して体に良い効果をたくさんもたらしてくれます。妊娠においても、エストロゲンとプロゲステロンが胎児の発達において重要な役割を担っています。

妊娠におけるホルモンの働き

 受精から10日前後で、受精卵は子宮内膜に着床します。妊娠検査をしなければ、女性が妊娠に気づくきっかけは月経が止まることです。

 妊娠が進むにつれ、エストロゲン、プロゲステロン、オキシトシン、エンドルフィン、プロラクチンなどさまざまなホルモンが分泌されて、成長する赤ちゃんにも母体にも変化をもたらします。

 リラキシンと呼ばれるホルモンは、妊娠中の普段の10倍程度の量が分泌されます。卵巣と胎盤でつくられるこのホルモンは、出産に備えて骨盤の靭帯を緩め、産道を柔らかくして広げる作用があります。

妊娠中のエストロゲンとプロゲステロンの働き

 妊娠3ヶ月頃になると、ホルモンをつくる役目が卵巣から胎盤に引き継がれ、胎盤がエストロゲンとプロゲステロンを産生するようになります。プロゲステロンは、母体の免疫系が赤ちゃんを異物と認識して流産させることを避けるために母体の免疫反応を抑制したり、母親の乳房組織の発達を促したりする作用があります。さらに、出産前の乳汁分泌を抑えたり、分娩に備えて骨盤壁の筋肉を強化したりもします。エストロゲンとプロゲステロンは、妊娠中ずっと上昇し続けますが、出産が近づくと大幅に減少します。

不妊とホルモン

 現代は、7組に1組のカップルが不妊に悩んでいるともいわれています。女性は35歳を過ぎると卵巣で健康な卵子がつくられる確率が下がりますが、男性は生涯を通して精子を作り続けることができるため、理論的には死ぬまで子どもをもうける可能性があります。しかし実際には、中年期にさしかかると、精子の数も質も緩やかに低下していくようです。

不妊の原因

 不妊の原因は、女性側では排卵の問題や卵管の閉塞、男性側では精子の質の低下などが多いです。女性では、排卵が自然に起こらず、妊娠が難しいケースもあります。このような場合は、排卵誘発剤で治療できることもあります。ただし、不妊の10%前後は原因が分かっていないようです。不妊の原因がホルモン異常かどうか調べる唯一の方法は、排卵を促進させる黄体形成ホルモンなどの主要なホルモンの血中濃度を測定することになります。

体外受精

 ホルモンは体外受精でも活躍します。体外受精の治療を受ける女性は、卵巣を刺激していくつもの卵子がつくられるようにするために卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンを投与されます。こうしてできた卵子が採取され、体外受精が行われます。受精から6日後に、発育のよさそうな受精卵を1個か2個選んで、女性の子宮に戻し、無事に着床すれば、赤ちゃんが生まれます。

妊娠中の幸せホルモン

 プロゲステロンはストレスの原因と思われがちですが、そうではありません。月経前の不調やストレスは短期間におけるプロゲステロンを含む主要ホルモンの急激な変動によるものだと考えられています。

 妊娠中はプロゲステロンの濃度が高くなり、特に妊娠後期にはプロゲステロンが「幸せホルモン」として活躍します。プロゲステロンには心を落ち着かせる効果があり、気分の浮き沈みが抑えられ、眠りに入りやすくなります。同様に、絆の形成にも役立つ幸せホルモンのオキシトシンとプロラクチンは、出産前後に最高潮に達します。

産後うつ

  妊娠中の全期間と出産後の数カ月のホルモンバランスは特に重要です。赤ちゃんとの絆を作るオキシトシンとプロラクチンは、出産後の幸福感を高めてくれます。ただ、産後はプロゲステロンなどの主要ホルモンが急激に低下する影響で、「マタニティブルー」(産後うつ)を引き起こす場合もあります。(産後うつになる女性の割合は10~15%に上る)

妊娠しやすい体を作る!

 不妊の原因がホルモン異常かどうかを調べるには、生殖に関わるホルモン量を測定する方法があります。ホルモン量に問題なければ、生活習慣を改めるだけで妊娠率は大幅にあがるはずです。

バランスの良い食事

 野菜、果物、魚、豆類、良質な肉などは、生殖に関わるホルモンのバランスを整え、妊娠しやすい体を作ります。妊娠率を上げるためには、体内のエストロゲンの分泌能力を高めることが有効と考えられています。体が天然のエストロゲンと勘違いしやすい植物性のフィトエストロゲンを食生活に取り入れることで良い効果を発揮します。

 フィトエストロゲンは、リンゴやサクランボ、プラム、ドライプルーンなどの果実、キャベツ、ニンニク、エンドウマメ、アルファルファ、ブロッコリー、ジャガイモなどの野菜、小麦やライ麦などの穀物、ナッツ類、納豆や大豆などの大豆製品などに多く含まれています。ナイジェリアのヨルバ人は双子の出生率が高いことで知られていますが、これはエストロゲンを含むヤムイモを多食することと関係があると考えられています。

喫煙・飲酒のリスク

 喫煙する女性は、卵巣にトラブルを抱えたり、流産したり、低体重児を出産したりするリスクが高いです。喫煙する男性は、ホルモン異常や精子数の減少、精子の運動率の低下を起こしやすいと考えられています。飲酒もリスク因子なので、なるべく避けた方が良いです。アルコールやニコチンなどの有害物質の摂取がおなかの赤ちゃんに与える影響は、成人への影響よりも大きいのです。

運動でホルモンバランスを維持

 前章の記述と同様に、日々の適度な運動により女性ホルモンの健康的なバランスが維持され、妊娠しやすい体を作ることが出来ます。

妊娠中の運動について

 妊娠期間は、大きく分けて3つに分類することができます。母子ともに不安定で、重要な時期である「妊娠初期」、いわゆる安定期と呼ばれる「妊娠中期」、お腹がずっしり重たくなってくる「妊娠後期」です。

 この中で運動を始めるのにベストな時期は「妊娠中期」です。妊娠初期はつわりに苦しむ妊婦さんも多く、できればのんびりと穏やかに過ごしたい時期ですが、中期に入れば初期流産のリスクも減りますし、この時期にはつわりが治まる妊婦さんも少なくありません。

 とはいえ、妊娠中の体調は人それぞれです。少しでも体調がよくないとき、不安があるときは無理せず体を休めましょう。

 アメリカ産婦人科学会によると、妊娠中は週に最低150分の中強度の有酸素運動をすることが理想的であるとされています。中強度の運動とは、ウォーキングでは「何とか会話ができるくらい」のペースで、1分間に120歩程度が目安になります。また、150分ということは、平均すると1日あたり30分の運動を週5回行う計算になります。一度に30分続けなくても、10分間の運動を毎日こまめに行ってもよいです。

 普段から運動をあまりしない方は、最初はゆっくりと始め、徐々に運動量を増やしていきましょう。最初は1日5分から始め、1日30分の運動ができるようになるまで、週に5分ずつ運動量を増やしていきます。体を長時間動かすよりも、体調や気分のよいときに少しずつおこなうことと、習慣化していくことが大切だといえます。

⇨女性ホルモンの働きと心と体のケアⅢ(閉経)

参考文献「ホルモンのはたらきパーフェクトガイド」

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