その③「薬やサプリメントで老化を治す」の続きになります。
細胞をリプログラミングする世界
進化するゲノム技術
こぶん
今回はボクが司会進行させていただきます!キリッ
早速ですが、リプログラミングって何ですか?
リプログラミングは医学用語で簡単にいうと「成熟細胞を初期化すること」なんだ。つまり、老化した細胞をDNAに基づいて若い頃の細胞にリセットすること。
おやぶん
てやんでい!そんな戯言(ざれごと)、寝言は寝て言えってんだ。
こぶん
おやびん、落ち着いて…。おやびんは、睡眠不足かな?
ささ、カモミールティーでも飲んで。
本当に夢のような話に聞こえるよね。でもシンクレア教授や多くの研究者が確信をもってそれを本気で実現しようとしている。
すでにもう、関連する様々なことが実証されつつあるんだよ。その1つがクローン技術。
1996年、羊の卵子の核を操作して世界初のクローン羊、ドリーが誕生。
2017年には、クローン犬1匹4万ドルで注文できるようになった。実際に、アメリカの有名歌手が、愛犬が亡くなり、代わりとしてその愛犬のクローンを2匹手に入れた。
2018年には中国で遺伝子組み換えをした双子の子供(デザイナーズベビー)が誕生した。
こういった遺伝子組み換えの技術は、私たちの知らない間に信じられないスピードで進んでいるんだよ。
すごいのぉ~。拙者のクローンも作れるんかのう。じゃが、色々と問題もありそうな気がするのう。
うん、すでに人のクローンも可能なほど技術は進んでいる。半面、その時代ごとに倫理的な指摘はもちろん入って議論の的になってきたけれど、時代とともにメディアからの情報量が多くなるにつれて、人々からあまり注目されなくなってきた。「そんなことできる時代になったんだ、へぇすごいねぇー、でも私(俺)関係ないよねー」みたいな。高度過ぎて、私たちの理解を超えてしまっているんだと思う。
こぶん
ボクはなんだか怖いです。。。
倫理の議論はひとまず置いておくよ。
肝心だったのが、このクローン技術の実証によって、年老いた成体の細胞からも新しい生命を生み出すことができるということ。つまり、老化しても細胞内には生まれたときから持っている生命の設計図が完璧な状態で存在するっていうことなんだ。
おやぶん
もしかして、その完璧な設計図から、もう一回細胞を若返らせようっていう魂胆か?
そう。京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞を発見して2012年にノーベル生理学・医学賞受賞したことは記憶にまだ新しいよね。実は…
こぶん
スタップ細胞は、ありますっ!
う、うん。それはなかったんだけど、悲しい事件だったね。。
ええと、山中教授が発見したiPS細胞というのは、成熟細胞(臓器や皮膚などの役割を持った細胞)から、ある遺伝子(山中因子と呼ばれる)を基に復元した元の未成熟でどんな細胞にも変身できる幹細胞のこと。つまり、細胞を若返らすことに成功したからノーベル賞を獲ったんだ。
なんと!若返りの術がすでに。
山中教授のおかげで、あらゆる血液細胞や臓器組織を移植用に培養できるようになった。すごい医療改革だよね。でもそれだけじゃない。この発見により細胞をリセットできるということが実証されたんだ。現在、シンクレア教授の研究室で、この山中因子などを体内に導入して若返りを実現する研究が日夜行われている。
おやぶん
研究者らの熱意には恐れ入った。どうやら寝言というのは早合点だったのう。
それで今後どうなっていくんだ?あっしもまだ若いやつには負けねぇが、老いを感じることもある。できるなら若い頃の体力を取り戻したいのう。
こぶん
おやびんはまだまだ若いですよ!
元気だけがとりえじゃないですかぁ。
うん、それほめてない。
じゃぁ、ここからどんな科学未来が私たちを待っているか、ちょっとした寸劇で紹介してみよう。
夢の若返り治療薬の使用事例(想定)
どうも~。タイムマシーンに乗って30年後の未来にやってきたガチャピです。
本日は、若返りを実践されたというガチャ丸こぶん君を取材しにきました。
こぶん
ガチャピのお兄さん、こんにちはー。
ガチャ丸こぶんです。45歳です。
(!?顔が若いまま)
こんにちは。ガチャ丸君、いや、さん。
変わってませんね~、若返ったのは本当のようですね!
どうしたらそうなれたんですか?やっぱり筋トレですか?
こぶん
ええ、まぁ。筋トレも週2回してます。ベンチプレス100kgあがります。ガチャピさんより強いです。エッヘン
(え、前より押しが強くなってる!?あんなに弱気だったのにー)
そ、それはすごいです。参りましたー。え?以上ですか?
こぶん
あ!最後の薬の時間だ。ちょっとまってくださいねー。
ゴックン。OKです。服用期間の1カ月が今日で終わりました。若返り完了です!それでは、失礼します。
ちょ、ちょまー!待って待って(笑)
何の薬ですか?若返り完了ってどういうことですか?
こぶん
何って「ドキシサイクリン」です。これ飲むと一か月ぐらいで20年ぐらい若返ります。みんなやってますよ。ちょっと高いですけど。
えー!?そんな薬があるの?
おいらにもおくれよー。
こぶん
でもガチャピさんは、確か20歳ぐらいですよね。それ以上は若返る必要ないです。それに仕込みしていないんで飲んでも効果ないですよ。
え、仕込みってなに?なんで若返っちゃいけないの~!?もう一回青春したいだけなのにー。もぉもぉ、パニックがちゃピィィイイ。
こぶん
落ち着いてください、ガチャピ兄さん。ほら、このカモミールティーでも飲んで。
若返るには工程が必要なんです。
・まずは、20代にアデノ随伴ウイルス(AAV)を1週間のあいだに3回注射します。これにより山中因子などの若返り遺伝子を特定の条件でONにする装置を体内で保持するようになります。
・そして、40代半ばくらいになって老化の気配を感じたときに、ドキシサイクリンの錠剤を1か月ほど服用します。そうすると、体内の装置がONの状態になり、体は1カ月かけて若返っていきます。終点は25歳程度までです。記憶はそのままに、肉体的、精神的に若返ります。
ほえ~。そうなんですね。
じゃぁ、まずはお注射しないとなんですね。お金持ってないんですけどー。
こぶん
あ、でも来年には、仕込みなしで若返り可能な薬が開発されるそうですよ。飲むだけでいいらしいです。お金ないなら、働きましょう。一緒にハローワークいきます?
リプログラミングの時代はまもなく来る
SFみたいでしょうか?遠い未来の話?
そんなことないんです。上で紹介した夢のような事例は、すでに動物実験において成功しているんです。
老化研究では、細胞のリプログラミングが間違いないなく次のフロンティアになります(とシンクレア教授が申しております)
おやぶん
だが、人ってぇと時間がかかるんじゃないか?
そうだね。人への安全性と効果を確認するために、とんでもない数の理論と試験が必要になるからね(倫理の問題もある)。でもこれが実現できれば、脳や肝臓など様々な臓器の回復も可能になって、多くの人命を救うことにつながる。すでに米国防省がこの研究を支援してくれているように、国を挙げて取り組んでいる。何度もいっちゃうけど、私たちの知らない間に、すごいスピードで世界的に研究が進んでいるんだ。
参考文献「LIFE SPAN 老いなき世界」